ステージワーク・シュミレーションの報告

2000年12月10日[日]13時〜19時 於:青年座劇場
 芝居の面白さをもっといろいろな点から多くの皆さまに知って頂きたい―。 そんな思いからこのステージワーク・シミュレーションは始まりました。自分たちが芝居を始めたばかりの頃のことを思い出しながら、客席に座って上演を観ているだけではわかりにくいスタッフの仕事についてどんなことをお話しすれば興味を持っていただけるのか、一日で何が可能なのかを一年がかりで話し合いました。
 ステージワーク・シミュレーションは、13時の青年座の演出家・宮田慶子による「演出とは何か」という総論から始まりました。 演出という仕事が、多くのスタッフとの関わりによってはじめて実現されていくものだという観点に立ち、芝居創りの流れについて説明していきました。
 13時40分からは、美術家島次郎さんの装置についてのお話です。 十数人しか入ることが出来ない小劇場から、大劇場、テント公演、野外劇まで多岐に渡る装置を手がけていらっしゃる島さんは、スライドを使って多くの事例について見せて下さいました。中でも興味深かったのは、同じ作品を違う演出家、違う劇場で演出した場合についてのスライドでした。演出家のどういう意図に沿って、島さんが何を実現していったのかがよくわかりました。
 14時50分からは、照明家中川隆一さんによる照明についてのお話でした。 中川さんは、はじめて台本を手にしたときから照明家は何を考えるのか。稽古場で稽古を観るときには何に注目するのかについて、時には笑いが起きるようなテンポのよいしゃべりでお話しして下さいました。また「光」があることで人は何をどう感じるのか、など照明家ならではの見方は、普段当たり前に光を享受しているわたしたちにとって新鮮なお話でした。
 15時50分からは、効果の高橋巌(青年座の劇団員です!)が、音響という単独の仕事でなく照明や舞台監督の仕事ととの関わりの中での音響のあり方についてお話ししました。 舞台にはカーテンの引かれた窓枠が用意され、扇風機で風が送られます。するとカーテンが風になびく。それに合わせて、様々な「音」を流してみます。突風、そよ風……。突風ならばもっとカーテンがなびくはず。これはおかしい。でも、かといってそよ風は必要だろうか、カーテンがなびいているのだから風があることはわかるはず。その上音を流すのは説明過多では?
 実際に目の前で見せていただくとおっしゃることがよくわかります。 同時にここでは舞台監督の安藤太一さんを始め、演出部の人たちが大活躍。普段は見えないスタッフの仕事もご覧になっていただけたのではないでしょうか。
 16時50分からは、スタッフミーティングの様子雰囲気を見ていただくため、演出家と各スタッフが舞台上に上がりました。 テキストとしてはあらかじめ参加者の皆様にお配りしておいた「恋愛恐怖病」を用い、演出家として青年座の伊藤大とわたくし藤井清美がそれぞれのプランから新たなプランに基づく各スタッフへの要望をまずお話しします。そこへそれを聞いた各スタッフからの新たなプランや、当然反対意見もあり、カンカンガクガク進んでいくスタッフミーティングの様子をかいま見て頂けたのではないかと思います。
 18時からは、「恋愛恐怖病」の一場面を伊藤大が青年座の俳優・横堀悦夫と野々村のんと共に稽古する風景を見て頂きました。
伊藤は二人の距離感や動きの違いによって観客がどういう印象を受けるかということを、実例を用いながらわかりやすく説明し、そして同じ芝居を藤井が青年座の俳優・桐本琢也と原口優子に一部上演してもらいました。藤井清美は、ト書きや台詞の解釈に注目し、俳優の二人と共に一つ一つの台詞をどう解釈していったか再現しました。たとえば「灯台に灯がついたわ」という台詞があったときその人物はその時はじめて灯台に灯がついたことを気付いたのか、或いは、気付いていたのにあえてその時何かの理由でそのことを口にする気持ちになったのか…。
 同じお芝居を、2人の演出家の違う演出で違う俳優さんたちが演じるのを、続けて観ることで、何か新しい経験をして頂けたのではないかと思います。
 単純にキャスティングが違うだけでもお芝居の印象はずいぶん違います。同時にその事を楽しみながら体験していただくと同時に、普段はご覧頂けない稽古場の中で私たちがどんな作業をしているのかふれて頂けたと思います。
 普段よくお芝居をご覧になる方でも、スタッフの話を直接お聞きになる機会はなかなかないはずです。単純に、「ああこういう人が芝居を創っているんだ」と思って頂くだけでも、芝居の世界を身近に感じていただけるきっかけになったのではないでしょうか。
 途中、コーヒーとお菓子によるブレイクも挟み、ワークショップは始終和やかな雰囲気で進みました。6時間というのは長いのではないか、話が専門的すぎないだろうか、様々な懸念も吹き飛ばすお客様の熱意と、私たちも勉強になってしまった各スタッフのお話に、かえってわたしたちのほうが元気づけられるような結果となりました。
 このワークショップの成功と、1回目のワークショップをさらに多くの方々に楽しんでいただくため、地方への出張も考えております。昨年行ったワークショップほどの大がかりなものだけでなく、話題を絞り、短い時間で気軽にさんかしていただけるものまで、様々な企画を考えております。

今演劇界で活躍するスタッフが講師です

監修・演出
 宮田 慶子
1957.7生。東京都出身。78年青年座研究所入所(文芸コース)。80年劇団青年座入団(文芸部)。劇団公演『ブンナよ、木からおりてこい』(水上勉作)の初演出以後、『トップガールズ』(89年十三夜会賞受賞)加藤健一事務所『セイムタイム・ネクストイヤー』(90年芸術祭賞受賞)の演出で注目を浴びる。94年の青年座公演『MOTHER』(マキノノゾミ作)で第29回紀伊國屋演劇賞個人賞、又97年『フユヒコ』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞、翌98年『ディアライアー』他で平成十年度芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。現在仙台を始め、各地演劇ワークショップの講師をつとめている。主な演出作品『愛は謎の変奏曲』(サンシャイン劇場)『かくて新年は』(新国立劇場)『パーフェクトデイズ』(ホリプロ)他。
 
装置
 島 二郎
80年代から美術プランに関わり、小さなアトリエから屋外、テント、大中小劇場まで、いろいろな空間でデザインを行う。第32回紀伊國屋演劇賞個人賞、第6回読売演劇大賞選考委員特別賞受賞。最近の主な作品『つくづく赤い風車』『火の起源』(以上青年座公演)『三人姉妹』(世田谷パブリックシアター)『華々しき一族』『マクベス』(以上新国立劇場)他多数。
 
照明
 中川 隆一
81951.10生。京都市出身。1971年照明家故穴沢喜美男氏・故氏伸介に師事。青年座公演の照明プランナーとして活躍すると共に演劇企画集団ガジラ・二兎社・第三舞台、又新国立劇場などの舞台に照明プランナーとしても活躍。現在AUライティングデザイン役員。最近の主な作品『MOTHER』(劇団青年座公演)『レプリカ』(世田谷パブリックシアター)『ら抜きの殺意』(テアトル・エコー)『マクベス』(新国立劇場)。
 
音響
 高橋 巌
1940年生。東京都出身。文化放送、東京演劇音響研究所を経て、81年オフィス新音を主宰。青年座公演の音響効果を手がける他に主に演劇を中心に幅広く舞台作品に関わり繊細かつダイナミックな音響空間創りを心がける。第五回読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞。青年座劇団員(演出部所属)。『無法松の一生』(劇団青年座公演)『令嬢ジュリー』(tpt)『ニジンスキー』(PARCO劇場)『パーフェクトデイズ』(世田谷パブリックシアター)他。
 
舞台監督
 安藤 太一
1949年生。静岡県出身。劇団現代を経て75年青年座入団。青年座公演の多くの舞台監督を務める傍ら、海外能公演のスタッフとしても活躍する。00年日本舞台監督者協会が設立され、理事に就任。『盟三五大切』『ブンナよ、木からおりてこい』『無法松の一生』(以上劇団青年座公演)他。
 
演出
 伊藤 大
1962年生。東京都出身。87年劇団青年座入団(文芸部)。95年文化庁在外研修員として1年間フランス滞在。97年3月帰国第一作として『ジャンナ』(青年座スタジオ公演)を演出。斬新な演出で注目を浴びる。主な演出作品『オルメドの騎士』『ムーランルージュ』(以上青年座公演)『バール』(世田谷パブリックシアター)『ミッドサマーナイトドリーム』(東京芸術劇場)等。99年より国立オペラ研修所講師。
 
演出
 藤井 清美
1971年生。徳島県出身。93年劇団青年座入団(文芸部)。劇団公演のみならず外部公演(栗山民也・鐘下辰男演出作品他)の演出助手を務める傍ら、96年『琥珀の中で眠るもの』(青年座スタジオ公演)書き下ろし・演出。以後『それは…薔薇』(翻訳・演出/『劇』小劇場)『パーフェクトパーフェクト』(作・演出/演劇企画集団ガジラ)他演出。2000年日本テレビシナリオ登竜門大賞優秀賞受賞。